前回に続いて武尊選手の細かいテクニックを見ていきます。
「後ろ足で距離感をずらす」
これは武尊選手は特に多用します。ムエタイの選手や一流選手は皆やってますが、武尊選手は特に多用しています。これは簡単に説明すると、最初の一歩を後ろ足から出す。それだけなんですが、これをやると相手にバレないように半歩距離を詰められるんです。前足から入ると『あ、入って来た』とバレるんで最初の一歩を後ろ足から入る。こうする事で距離感をずらせます。これを武尊選手程の攻撃力を持った選手が使うと相当やばい。一撃で相手を沈める獣が気づかない内に近寄って来てるんです。もう怖いでしょこんなん。
「瞬間的なスイッチ」
これもたまに使いますね。普通にスイッチする選手は最近よく見るんですが、武尊選手は一瞬だけのスイッチを使います。具体的にはスイッチしながらの右フック等。これもこっそりと距離を詰めるのに使ってます。一瞬のスイッチで急に飛び込んで来たと相手に思わせます。武尊選手のスピードと攻撃力ならこれも地味な技術ですが凶悪になります。
「歩く」
これテクニック?と思うかもしれませんが、武尊選手にこれやられると相手は本当に怖いと思います。武尊選手は先に述べたように基本に忠実です。ローと前蹴りで削りながら(これも武尊選手のローと前蹴りはそれだけで相当強烈)近づいて来たらこれまた強烈な膝(ここまで距離感狂わされてる)さらに上には一発で意識が飛ぶようなパンチの嵐。しかも正面ではなくすこーし横にずれてる。正面から向かい打てないのにこれだけの攻撃が飛んでくるんです。頭もしっかり振りながら。当然たまらず相手は下がって立て直そうとしますよね?その時にこの必殺歩く、やるんです。何が違うかというと距離を詰められるスピードが速い。それも当然で、すり足で進むのとのしのし歩きだと単純に一歩の速さが倍になります。これを武尊選手にやられたら相当怖いと思いますよ。立て直す呼吸を与えてもらえない。やっと安全圏かと思ったらめっちゃ歩いて詰めてくる、ついでに遠距離砲の前蹴りを混ぜながら。歩いてくるっていう見た目も含めてその圧力は相当に凶悪だと思います。(しかも時には笑いながら)
「絶対に自分の攻撃で終わる」
またまた地味です。ですがこれも相当嫌です。何を出してもより強力な攻撃が返ってくるんです。常に倍返し。しかも100%に近い率で。基本なんですがこれも武尊選手がやると必殺技に変わります。超スピードで返ってくるんでカウンターです。ベストのタイミングのカウンターではないんですが十分カウンターとしての返しが待ってます。よく自分の攻撃で終われと言いますが、武尊選手は全局面でこれをやって来ます。想像するだけで恐ろしい。
こうして列挙してみると、確かに武尊選手の使うテクニックは地味です。ですが、先にあげたテクニシャンの特徴を持ちながら、一発一発がKOレベル、さらにスピードもクラス最高レベル。勇気を出して飛び込んでも斜めの動きで中心線にはいない。頭もずらしてある。なんとか当ててもこっちを見てて攻撃を認識してる上に顎がしっかり下がってるから脳は揺れない。その上武尊選手は頭の回転も速いので全ての組み立てが速いです。次から次へと展開していきます。早打ちの将棋のように次々に手が打てないと着いていけません。
こうして考えてみるととにかく全てが凶悪。これを絶対に完遂してくるんです。絶対に嫌なタイミングで来るんです。クラス最高レベルの攻撃力とスピードを持った選手が。さらにどれだけ相手が頑張って攻略しようとしても絶対にメンタルが崩れない。普通に考えてkー1ルールで誰も勝てるはずがありません。
では弱点が全くないかというと、そうでもない。それは先にあげた武尊選手の特徴と表裏一体です。後ろ足ステップと瞬間的なスイッチの過程で起こりうる弱点です。それは体が正面を向く瞬間がある、ということです。この一瞬だけは攻撃が当たる隙間です。ただ実際には近い距離での正面は武尊選手の攻撃も飛んでくるので、武尊選手よりも体が強くてスピードが速くて基本が同じくらいしっかりしてる選手しかこの局面での勝負では勝てません。過去そういった選手はいませんでした。ここで挑んだ全員がやられています。残ったのは最初の段階で後ろ足で詰めてくる時に先(セン、と読みます。相手が出ようとした瞬間のタイミングで自分が先に出る、という技術です。さきに出るというのとは違います。)を取る、です。ただこの距離もローや前蹴りが飛んでくるので先を取るのをミスると一気に詰められて危ない。そもそも自分にとって嫌な攻撃をしてくる選手をさらに嫌な攻撃で抑え込むのはそれこそ超絶テクニシャンじゃないと無理です。ただし、これをやろうとしてかなり成功出来た選手が一人だけいます。それは村越優太選手です。村越選手は徹底的にこれをやりました。先を取りつつローや前蹴りをカットして、近い距離ではパンチや膝を置きつつくっついてブレーク、武尊選手をかなり苦しめました。ただしこれもやはり勝てるところまでは行きませんでした。それとレオナ選手も最初は先を取る組み立てから入りましたね。最初1分程は良かったんですが、これもローを効かされてすぐに撃ち合いに巻き込まれて失敗しました。
ここでまとめに入ります!武尊選手に勝てる選手の特徴は、遠い距離ではローをカット出来て、先を取れる。距離感も狂わせられない。武尊選手の得意な組み立てを全部最初の段階で封じて攻撃を組み立てさせない事。近い距離では武尊選手よりも速い回転でパンチのコンビネーションを打ててその一発一発が同じくらい強力。さらにその中でもちゃんと相手を見ながら顎を引いて頭を振る。動きが真っ直ぐじゃなくて斜め移動前提で。その上で危なくなったら武尊選手の歩きよりも速く攻撃圏から避難できるスピードも必要。状況によっては内側の近い場所で避難出来る一瞬の判断力。そして安全圏にいられる短い時間の中ですぐに気持ちを立て直し組み立てをし直すメンタルとインテリジェンスも必要。こう考えるとこれを出来る選手が今までいなかった事も頷けます。言うは易し、ですね。こんなん出来る身体能力と頭の良さと鬼メンタル持った選手なんてそりゃいないでしょう。
では那須川天心選手ならどうでしょうか?次回からはその辺も考えてみようと思います。